2012年6月16日土曜日

タロー

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犬がいつも一緒だった。
犬がいつも友達だった。
犬の名前は タロー 
薄い茶色の雑種の犬
小田急線上北沢、都営の小さな団地。
犬や猫を飼うことは禁じられていた、隣人の苦情や保健所の車にいつも、びくびくと怯えながらも、タローとは決して離れなかった。
隣近所に母が頭を下げてまわっていたのを覚えている。
母が、僕らを守ってくれた。

2010年6月15日火曜日

餃子

新宿駅東口、今の小田急百貨店の場所に、その餃子屋はあった。

当時高校生だった兄に連れられて、上野の博物館へ行った、恐竜や、太古の化石を夢中になってみた。
夕方になり、新宿で寄り道をして食べさせてもらった餃子、旨くてうまくて、何皿もおかわりをした。
しかし、兄は何故か殆ど食べずに、時計ばかりを気にしていた気がする。

夜遅く、家に帰ると、家の中は空っぽだった、箪笥や冷蔵庫、ステレオやテレビが、みんな消えて無くなっていた、この日、我が家は、差し押さえの執行を受けていたのだ。

小学校2年の僕に、兄は恐竜を見せてくれた。
空っぽの家で、その夜に僕は、探検隊になった夢を見た、兄貴が見せてくれた、精一杯の夢。

2010年6月14日月曜日

学芸会

小学校の四年。
学芸会で演劇をやることになった、走れメロス。
学級投票が行われ、どいうわけか主人公のメロスの役を演じる事になった。
嫌がる振りをしながらも、内心、飛び上がるほどうれしかった、誰よりも父や母に知らせたかった。
放課後の練習がしばらく続き、衣装も父の真っ白いワイシャツをおろして、母が手縫いでこしらえてくれた。
体育館の袖の舞台に立って、全校生を前に、大きな声で演じる、僕のメロスが居た。
カメラマンのフラッシュが焚かれ、どこからか拍手も聞こえた、あっという間の時間が過ぎて、僕は確かにヒーローだった。
明日からの生活の何もかもが変わる気がして、そして、数枚の小さな写真を残しただけで、何も変わらない事を
知った、メロスは友情だけを信じて走り抜いたのに。

テレビの上に置かれた写真立てには、真っ白い衣装の、僕のメロスが一生懸命に走り続けていた。
得ることよりも、切り捨てることの多かった学生の時代。
学ぶことは黒板からではなく、日々の感情の中から学んだ、
数の理も、物の理も。

2009年1月7日水曜日

2009年1月6日火曜日

時計


25年前に池袋の登山用品店で購入、なによりも、そのブランドが大好きだった。
泥だらけで疾走するラリーカーのダッシュボードには、きまってこのブランドの積算計が収まっていた。

岩登りに明け暮れてたあの頃、丹沢・八ッ・そして谷川へと、いつもの私の、頼もしい相棒だった。

岩から離れて週末を過ごすようになった ある日を境に、この時計は、親父の腕で時を刻むようになり、親父の時を刻み終えて、また私の元へと 還ってきた。

日に焼けた時計に刻まれた傷の、ひとつ ひとつ を愛でながら、 あの時間のなかに在った、一途な熱情の日々に 思いを巡らせている。





2009年1月5日月曜日